大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8188号 判決

原告

渡辺登美男

被告

鈴木望

ほか一名

主文

(一)  原告に対し

1  被告鈴木望は金九二万三、四四三円および内金七九万三、四四三円に対する昭和四九年八月一五日から、内金一三万円に対する昭和五一年一月一九日から

2  同鈴木春治は金八九万一、七三三円および内金七六万一、七三三円に対する昭和四九年八月一五日から、内金一三万円に対する昭和五一年一月一九日から

いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担、その余を被告らの連帯負担とする。

(四)  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

(一)  原告に対し、被告鈴木望は金二一六万五、〇一二円、同鈴木春治は金二一三万三、三〇二円および右各金員に対する昭和四九年八月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告は、昭和四六年九月二日自動車(以下「被害車」という。)を運転して、千葉県市原市八幡浦一丁目三番地先交差点で信号待ちをしていたところ、被告鈴木望(以下「被告望」という。)運転の自動車(千葉五五な七六二一号、以下「加害車」という。)に追突された。

(二)  被告らの責任

1 被告鈴木春治(以下「被告春治」という。)は、加害車を所有し自己のため運行の用に供していたものであるから、後記原告の車両損害を除く損害を賠償する責任がある。

2 同望は、前方不注視の過失により本件事故を惹起したものであるから、後記原告の全損害を賠償する責任がある。

(三)  原告の傷害および後遺症

原告は、右事故により、頸部捻挫、頸部外傷、頸部挫傷の傷害を負い、昭和四六年九月二日から同月六日まで五日間入院したほか、同月一一日から昭和四九年八月八日までの間一六〇回通院治療したが、なお頭痛、手指のしびれ、肩こり、握力低下、易疲労性などの後遺症がある。

(四)  原告の損害

1 治療費 金三五万二、三六三円

2 交通費 金七、二五〇円

3 文書費 金三万円

4 通信費 金二、〇三五円

5 雑費 金五、七一五円

6 休業損害 金六七万二、六七二円

原告は、会社役員として本件事故以前の三ケ月間に金三三万円(日収金三、六九六円)の収入を得ていたところ、本件事故による傷害のため、事故当日から昭和四七年三月二日まで一八二日間休業した。

7 逸失利益 金三二万六、一〇二円

原告は、前記後遺症のため労働能力を五パーセント喪失したところ、昭和四七年三月三日から昭和五〇年五月一二日までの損害が金二一万五、四七七円、その翌月から五年間の損害が中間利息を控除すると金一一万〇、六二五円、合計金三二万六、一〇二円が逸失利益となる。

8 慰謝料 金一〇〇万円

9 車両損害 金三万一、七一〇円

10 弁護士費用 金四一万二、八九七円

(五)  損害の填補

原告は、被告らおよび自賠責保険から合計金六七万五、七三二円の填補を受けた。

(六)  結論

よつて、原告は、被告望に対し金二一六万五、〇一二円、同春治に対し金二一三万三、三〇二円および右各金員に対する本件事故発生の日ののちである昭和四九年八月一五日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  請求原因(一)および(二)の事実を認める。

(二)  同(三)および(四)の事実は不知。

原告は、本件事故後である昭和四八年五月一九日午後九時頃東京都千代田区九段北一丁目一番地先路上において訴外山口康運転のタクシーに追突されて、頭頸部外傷の傷害を負つた。東京警察病院において原告は、後頭部に項部痛があり、頸部レントゲン撮影によると、第四、第五頸椎間にズレ(脱臼)および第四、第五頸椎間にも軽度のズレがそれぞれ新たに生じたため、約三ケ月間の治療を要する旨診断された。従つて、原告の主張する右同日以降の通院および後遺症は本件事故と因果関係がない。

(三)  同(五)の事実を認める。

三  被告らの主張

原告は、その勤務先である訴外株式会社渡辺商店から原告主張の休業期間中に金二五万九、五六〇円の支給を受けている。

四  被告らの主張に対する原告の答弁

被告ら主張の事実を認める。ただし、右金員は、生活補助の趣旨で借用したもので、その後右訴外会社から返還請求されているので、原告の損害に対する填補として控除すべきものではない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生と被告の責任

請求原因(一)および(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  原告の傷害および後遺症

成立に争いのない甲第一号証の一、四、原本の存在および成立に争いのない乙第一、第五、第八、第九号証、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告は、本件事故により、頭頸部外傷の傷害を負い、長谷川病院に昭和四六年九月三日から同月六日まで四日間入院して保存療法を受けた結果、頸部痛、両上肢しびれ感・脱力感が軽快して退院した。そして原告は、同月一一日後頭部痛等を訴えて東京警察病院脳神経外科に通院し、神経学的検査およびレントゲン検査上異常なしと診断されたが、その後、右手第一ないし第三指のしびれ感、肩こりをも訴えるようになり、レントゲン検査上第五、六頸椎の動きが不安定である旨診断された。原告は、同病院脳神経外科に昭和四七年八月二六日まで通院して、理学療法と投薬を受けていたが、右症状を残したままその後右脳神経外科への通院を中断した。ところが原告は、昭和四八年五月一九日自動車を運転して信号待ちのため一時停止中他の自動車に追突され、運転席の枕に頭を打つて救急車で病院に運ばれた。そして東京警察病院脳神経外科で同月二二日から通院治療を受けたが、同日のレントゲン検査によれば、第四、五頸椎間のずれ(亜脱臼)のほか、第五、六頸椎間にも軽度のずれが認められた。原告は、昭和四九年六月六日に、同脳神経外科において、右頸部から肩部にかけての圧迫感、右第一ないし第三指のしびれ感があり、疲労時や天候によつては右症状が増悪するとの自覚症状があり、他覚的には、四肢腱反射亢進、右握力軽度低下が認められ、これらの症状は自賠法施行令別表一四級に該当すると診断された。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば、原告の本件事故による傷害は、昭和四七年八月頃には、右手第一ないし第三指のしびれ感、肩こりの症状を残して固定したものと推認され、昭和四八年五月一九日以降の右病院での通院治療については、本件事故と相当因果関係にあるものとは認め難い。

三  原告の損害

(一)  治療費および文書費 金一九万六、八六五円

成立に争いのない甲第二号証の一、乙第三号証、原本の存在につき争いがなく、弁論の全趣旨によりその成立を認める同第二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第七号証の二八、三一および同本人尋問の結果によれば、原告が、長谷川病院における治療費および文書料として金七万八、九四〇円を支払つたこと、東京警察病院に、昭和四六年九月一一日から昭和四七年六月一三日までの治療費および文書料として金一三万六、八八五円を支払つたが、内金四万〇、七九五円は、原告が本件事故と因果関係のない十二指腸潰瘍の治療に関して支払つたものであること、同月一七日から同年八月二六日までの治療費として金一万九、六七五円を支払つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。また成立に争いのない甲第二号証の三によれば、原告が、東京警察病院に対し昭和四七年一一月一七日から昭和四九年八月八日までの間の診断書および診療費明細書七通の費用として合計金五、〇〇〇円(一通五〇〇円又は一、〇〇〇円)、治療費として金一四万八、七三〇円を支払つたことが認められるが、右期間中に発行された文書であることが明らかな成立に争いのない甲第一号証の二、三、同第二号証の二の三通をその記載内容からして本件事故と相当因果関係のある文書と認め、その代金として控え目にみて一通当り金五〇〇円合計金一、五〇〇円であると認めることとし、その余の費用は、前記二に述べたところにより、本件事故と相当因果関係にあるものとは認められない。また原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第七号証の二によれば、原告が事故証明関係書類のための費用として金六六〇円を要したことが認められる。

以上述べたところによれば、原告主張の治療費および文書料中金一九万六、八六五円に限り、本件事故と相当因果関係にある費用であると認められる。

(二)  交通費 金五、三〇〇円

前顕甲第一号証の一、同第七号証の二、二八、三一によれば、原告が長谷川病院に入院した昭和四六年九月三日に神田から同病院までの大人一名の往復交通費金六六〇円、同月五日に右区間の大人一名、子供三名の往復交通費金一、二六〇円、同月六日事故証明書を取りに市原警察署と同病院との往復交通費金二六〇円を要したこと、東京警察病院(脳神経外科)への往復交通費は一回金六〇円であるところ、同月一一日から昭和四七年六月一七日まで四一回、その後同年八月二六日まで一一回通院したことが認められる。右のうち昭和四六年九月三日の交通費は原告の妻が自宅から長谷川病院まで行つたために要したものであり、同月五日のそれは原告の妻と子が行つたための費用であると推認されるので、前記交通費合計金五、三〇〇円はすべて本件事故と相当因果関係にあるものと認める。原告は、右のほかにも金一、九五〇円の交通費を要した旨主張し、甲第七号証の二、九、一〇、一五 一七、一九、二一、二三、二六、二八、三一等には右主張にそう記載があるが、これが本件事故と相当因果関係にあることを認めるべき証拠はない。

(三)  通信費・雑費 金五、三〇〇円

前顕甲第二号証の二および原告本人尋問の結果によれば、原告が長谷川病院に入院するに際し金三、三〇〇円のポツトを買つたことが認められる。また前記原告の入院期間等に鑑み、通信費を含めて一日当り金五〇〇円合計金二、〇〇〇円の雑費を要したものと推認する。原告は、右のほか金二、四五〇円を要した旨主張し、甲第七号証の二、四、六、九、一二、一五、一七、一九、二一、二三、二八、三一等および原告本人尋問の結果には右主張にそう部分があるが、右費用が本件事故と相当因果関係にあることを認めるに足りる証拠はない。

(四)  休業損害および逸失利益 金六三万円

成立に争いのない甲第三号証、同第四号証の二、同第五号証の一、二、同第六号証および原告本人尋問の結果によれば、原告が、ボルト、ナツト、建築金物の卸販売を業とする株式会社渡辺商店(資本金一〇〇万円)(以下「訴外会社」という。)の代表取締役をして、本件事故当時一ケ月金一一万円の収入を得ていたこと、訴外会社では、原告のほかに、原告の妻および訴外小沢某の二名が実際に仕事をしており、訴外小沢が主として自動車を運転してボルトを配達する業務に従事し、原告の妻が事務等の仕事をし、原告が主として自動車に乗つて外交を行ない、臨時に配達業務に従事していたことが認められる。

右原告の仕事内容および前記二の事実に鑑みると、原告が、本件事故による負傷のため、本件事故後昭和四七年三月二日まで平均して五割、その後同年九月二日まで平均して三割、その後一年間平均して〇・五割労働能力を喪失したものと推認され、右認定に反する甲第一号証の二および原告本人尋問の結果は前記原告の症状および乙第九号証にてらしてたやすく措信しがたい。

ところで、当裁判所に顕著な労働省の賃金構造基本統計調査によれば、全産業全男子労働者の平均年間給与額が、昭和四六年度において金一一七万二、二〇〇円、昭和四七年度において金一三四万六、六〇〇円、昭和四八年度において金一六二万四、二〇〇円であると認められ、原告の年収も本件事故に遭遇しなければ、右平均給与額と同じ割合において上昇したものと推認されるので、これに従つて計算すると、原告の労働能力喪失に伴う損害は、昭和四九年八月一五日の現価において金六三万円を下らないものと認められる。

なお、原告が昭和四七年三月二日までの間に訴外会社から金二五万九、三六〇円の金員を得たことは当事者間に争いがないところ、この部分が原告に対して貸付けられたものではなくて与えられたものであるとしても、右認定によれば、これは原告の右期間中の五割の労働能力に対する対価として考えられるべきものであるから、右金六三万円から控除すべきものではない。

(五)  慰謝料 金六〇万円

前記認定の諸事情に鑑み、原告に対する慰謝料としては金六〇万円が相当であると認める。

(六)  車両損害 金三万一、七一〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第八号証および原告本人尋問の結果によつて認める。

四  損害の填補

原告が自賠責保険および被告らから金六七万五、七三二円の填補を受けたことは当事者間に争いがない。

五  弁護士費用 金一三万円

原告が本訴追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、その報酬等としていかほどの金員を支払いまたは支払うべき旨約したかについては何らの証拠もないが、弁護士に訴訟追行を委任した以上、それ相応の金員を支払うべきことは当然のことであるので、本件事案の内容、訴訟経過、認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係にあるものとして被告らに請求しうべき分としては、金一三万円が相当であると認める。

六  結論

以上述べたところによれば、原告の本訴請求は、被告望に対し金九二万三、四四三円およびこれから弁護士費用分金一三万円を控除した残金七九万三、四四三円に対する本件事故発生の日の後である昭和四九年八月一五日から、右金一三万円に対する本判決言渡の日である昭和五一年一月一九日から、同春治に対し金八九万一、七三三円およびこれから弁護士費用分金一三万円を控除した残金七六万一、七三三円に対する昭和四九年八月一五日から、右金一三万円に対する昭和五一年一月一九日から、いずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余の請求を失当として棄却、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例